パワーリフターの3種目のバランスに関する男女/階級ごとの傾向調査

パワーリフターにもいくつか種類があるよね!

基本的にパワーリフターは以下の4つに分類されます。大会では SQ ⇒ BP ⇒ DLの順番に行われるので、それぞれの得意不得意は試合展開にも大きく影響します。

  • 先行逃げ切り型
    ⇒ SQ/BPが強い
  • バランス型
    ⇒ 3種がバランスよく強い
  • 後半追い上げ型
    ⇒ BP/DLが強い
  • ベンチプレッサー型
    ⇒ BPが特に強い or BP専門選手

本記事では最終的に上記のタイプを線引きできる数値を決定することを目的としています。主に男女/階級で分類して傾向を調査していきます。

本記事の位置付け

最終目的
4つのタイプを分類する数値(%)を定義する

使用するデータ
2022年版のパワーリフターランキング (n=2246)
※男子 53kg級、女子43kg級を除く

アプローチ

  • 男女の傾向差を調査する
  • 階級による傾向差を調査する

おまけ
トップリフターに求められる要素を検討

※ 2022年のデータをもとに作成しているため、ベンチプレスの新ルール導入により、2023年以降の結果では傾向が少しズレてくる可能性もあります。

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パワーリフターの3種目のバランスの男女差

まずはパワーリフターの3種目のバランスを男女で比較していきます。ポイントは以下の2点です。

  • SQの割合に男女差はない
  • 女子選手は男子選手に比べてBPの割合が低くDLの割合が高い傾向にある
    ⇒上体の筋肉量に差があるため

3種目のバランスの男女差

2022年のパワーリフターランキングをもとに男子/女子それぞれの平均値を表にしました。SQに差はなく、BPやDLで男女差が大きいことが分かります。

男子女子
SQ35.2%35.3%
BP24.1%20.7%
DL40.7%44.0%
sub Total59.3%56.0%
(男子 n=1914, 女子 n=367)

sub TotalにはBPの差がそのまま乗っかってくるので以下のような傾向があると言えそうです。だいたい3%の差がありますね。

  • BPおよびsub Totalの割合は男子選手のほうが高くなりやすい
  • DLの割合は女子選手のほうが高くなりやすい

3種の男女差についての考察

女子選手でBPの割合が低くなるのは男女間での筋肉の付き方の差が要因として考えられます。下半身に比べると上半身のほうが筋肉量の男女差が大きいからです。

男子女子
全身の筋肉量33.0kg21.0kg
上半身の筋肉量14.1kg8.4kg
下半身の筋肉量18.1kg12.2kg
参考文献より (全年齢での平均値)
女子/ 男子
全身の筋肉量63.6%
上半身の筋肉量59.6%
下半身の筋肉量67.4%
参考文献より (全年齢での平均値)

特に腕の筋肉は差が大きく女性は男性の半分以下になってしまう場合も多いようです。詳しくは以下の参考文献をご覧ください。

参考文献:Skeletal muscle mass and distribution in 468 men andwomen aged 18–88 yr

パワーリフターの3種目のバランスの階級差/体重差

次に階級差(体重差)による傾向を調査していきます。ポイントは以下の3点です。

  • 男女ともに階級が上がるとサブトータルの割合が増加する傾向
  • 男子選手はSQ/BPの割合がどちらも増加
  • 女子選手に関してはSQは増加するがBPは横ばいに近い

階級UPでSub Totalの割合が増加

グラフから見ても明らかなように階級が上がるごとにSub Totalが全体に占める割合は高くなる傾向にありました。特にその差は男性で大きく、最軽量の59kgと最重量の120+kgでは平均値で約6%の差になりました。

※6%の差はTotal 500kgだと30kg差、Total 700kgだと42kg差に相当

59kg級57.5%
83kg級59.7%
120+kg級63.6%
男性の階級別のSub Totalの割合
47kg級55.0%
63kg級56.2%
84+kg級59.0%
女性の階級別のSub Totalの割合

【補足】
女子選手についてはSub Totalの割合が増えていく傾向が76kgでほぼ飽和しています。76kg級より上では階級ごとの母数も20人を切っているので傾向を正しく反映できていない可能性があります。

男子はSQ/BPの両方の割合が増加

男子選手の場合は59kgから120+kgまで階級が上がるごとに SQとBPの両方の割合が増加し続ける傾向にありました。結果的に Sub Totalの割合も増加を続けています。

SQBP
59kg級33.9%23.6%
83kg級35.4%24.4%
120+kg級37.0%26.7%
男性の階級別のSQ/BPの割合

【補足】
日本選手の傾向としては120kgあたりで概ね SQ = DL という重量になります。さらに体重が増えていき、無差別級の世界トップ選手になるとSQの割合が40%強になる選手もいるようです。

記録割合
SQ470kg40.8%
BP272.5kg23.6%
DL410kg35.6%
120+kgのJesus Olivaresの記録 (体重178kg)

DLでは体に合わせてシャフトが長くならないので長身の選手はワイドスタンスにするメリットが減っていくことも要因の1つにありそうです。

女子はSQは増加するがBPは横ばい

女子選手の場合は47kgから84+kgまで SQの割合は増加していくものの、BPはほぼ横ばいの傾向にありました。

SQBP
47kg級33.9%21.0%
63kg級35.5%20.7%
84+kg級38.0%20.9%
女性の階級別のSub Totalの割合

BPでは主に以下のような要因が複雑に関わっているため、あまり差が出なかったと考えられます。

  • 小柄な選手は腕の長さに対して81cmラインが広いので手幅を広げることで可動域が狭められる
  • 小柄な選手は体の大きさに対してベンチ台が高いのでより全身の力を使ったBPができる
  • 体重が増加していくと手の長さ以上に胸囲が増えて可動域が減る

【補足】
女子選手では84kg級でも SQ < DL という傾向がまだ強いです。100kgを超えたあたりから SQ ≧ DL の傾向が強まってくるようです。

記録割合
SQ246.5kg38.2%
BP130kg20.2%
DL268.5kg41.6%
84kgのAmanda Lawrenceの記録

トップパワーリフターの3種のバランスの傾向

男性の59kg~120kg級で上位10%を抜き出して傾向を調査しました。以下の2点がポイントです。おそらく競技している方が実際に感じていることから外れていないと思います。

  • 上位10%は2階級分くらい上の平均と近い傾向を示す
    (搭載筋量が多くBMIが高くなる?)
  • 上位10%では平均から5%以上離れている選手の割合が約1/4になる
    (弱点があると勝てない?)

補足
女子選手や男子120+kg級は上位10%を抜き出すと人数が10人以下になってしまうため対象外としました。

軽量上位は中量級の平均に近い傾向

軽量級(59,66kg)上位10%のみで割合を算出すると83kg級 / 93kg級に近い傾向が見られました。DLとSQの重量が近付いていく傾向です。

59kg
(平均)
59kg
(上位10%)
83kg
(平均)
SQ33.9%35.2%35.4%
BP23.6%24.4%24.4%
DL42.5%40.5%40.3%
59kg級(上位10%)のバランスの傾向

搭載筋量が増してきてBMIが高まっていることが要因としてありそうです。実際、海外サイトでは以下のような指標も出されています。身長170cmの人が ウィルクススコア 450 に到達する場合と、500に到達する場合の体重の目安です。

ウィルクススコアとは?

170cm
Wilks 45075kg
Wilks 500100kg
身長 170cmの人が指定のウィルクススコアを目指す際の体重の目安

【補足】
ウィルクススコア 450の場合は 170cm/75kgで Total 530kg, ウィルクススコア 500の場合は 170cm/100kgで Total 685kgを目指すような場合に相当します。450であれば地方大会でそこそこの成績を残せるくらいで、500を超えてくると全国大会で入賞争いができるような数値と言えそうです。

上位は平均から離れた選手が減る

以下は 平均的な割合から5%以上離れた得意 or 不得意種目がある人の割合を調査したものです。全体で見ると7人に1人が平均から離れた種目があるのに対して、上位10%になると20人に1人までその割合は減ります。

± 5%以上の人数割合
上位 10%8人5%
全体平均350人16%
59kg級(上位10%)のバランスの傾向

苦手種目があると勝ちきれないというのはなんとなくイメージ通りかと思います。上位選手ほど先行逃げ切り型であっても後半追い上げ型であってもバランス型に近くないと勝ちにくいということですね。

参考
平均から5%以上の苦手種目がある選手のなかで順位が最も高かったのは66kg級の川島選手でした。直近の大会では JCBと全日本ベンチで2冠、世界選手権ではノーギア2位、フルギア3位とBPがずば抜けているため、勝負できているということかと思います。

パワーリフターの分類に対する本サイトの定義

本記事の最終目的は「4つのタイプを分類する数値(%)を定義する」ことでした。今回のデータをまとめた結果、以下のような基準で4つのタイプを分けることにしました。

※本結果をもとにパワーリフターのバランス診断メーカーを作ろうとしていたのである程度、結果が分かれるように意図的に区切っています。

バランスで決める4分類の定義

4つの分類は以下のように定義しました。

ベンチプレッサータイプ各階級の平均割合よりもBPが5%以上高い
先行逃げ切り型①各階級の平均割合よりもSub Totalが1.5%以上高い
②各階級の平均割合よりもSQが4%以上高い
後半追い上げ型①各階級の平均割合より後半2種目が1.5%以上高い
②各階級の平均割合よりもDLが3%以上高い
バランス型上記のどれにも属さない

少しイメージがしやすいように具体例を紹介します。ある程度、選手の特徴が掴めるかと思います。

74kg級でTotal 500kgの場合
  • ベンチプレッサータイプになるためには?
    ⇒BPが29%以上でないとダメなので145kg以上
  • 先行逃げ切り型の場合は?
    ①Sub toal 302.5kg以上
    ②SQ 195kg以上
  • 後半追い上げ型の場合は?
    ①BP+DLで332.5kg以上
    ②DL 225kg以上

定義に沿って分類した選手の割合

上記の割合に基づいて選手を分類した場合、2022年版のランキングに記載されている2246人の選手は以下のような割合になります。

ベンチプレッサータイプ5%
先行逃げ切り型26%
後半追い上げ型26%
バランス型43%

ベンチプレッサータイプに属する有名選手

  • 小林ナオコさん
    ⇒47kg級BP世界記録/日本記録保持者
  • 福島未里さん
    ⇒57kg級 BP/Total 日本記録保持者
  • 田中玲星さん
    ⇒59kg級 BP 日本記録保持者
  • 藤本竜希さん
    ⇒120+kg級 BP 日本記録保持者

先行逃げ切り型に属する有名選手

  • 中島沙也香さん
    ⇒57kg級SQ日本記録保持者
  • 服部裕穂さん
    ⇒2023 JCP 63kg級1位
  • 渋⾕優輝さん
    ⇒83kg級 SQ 日本記録保持者
  • 中村鮎人さん
    ⇒いろんな意味で有名

後半追い上げ型に属する有名選手

  • 野村優さん
    ⇒63, 69kg級 DL/Total日本記録保持者
  • 宮崎恭子さん
    ⇒76kg級 DL日本記録保持者
  • 牛山恭太さん
    ⇒66kg級 DL/Total 日本記録保持者
  • 佐藤大河さん
    ⇒2023 JCP 一般3位/ Jr 1位

バランス型に属する有名選手

  • 齋藤恵さん
    ⇒52kg級 DL日本記録保持者
  • 佐藤南さん
    ⇒84+kg級 SQ/DL/Total日本記録保持者
  • 宇都木悠さん
    ⇒74kg級 Total 日本記録保持者
  • 枝和輝さん
    ⇒2022 とちぎ国体 120kg級 1位

まとめ

パワーリフティングの3種目のバランスについて傾向を調査しました。

傾向のおさらい
  • 女子選手はBPの割合が低く、DLの割合が高くなりやすい
  • 階級が上がるほど、Sub Totalが全体に占める割合が上がる
  • 上位選手になるほどバランスタイプに近い選手の割合が増える

繰り返しとなりますが、本サイトでは4つの分類を以下のように定義しました。以下の割合ではバランス型と 先行逃げ切り型+後半追い上げ型の割合がちょうど均等になります。

ベンチプレッサータイプ各階級の平均割合よりもBPが5%以上高い
先行逃げ切り型①各階級の平均割合よりもSub Totalが1.5%以上高い
②各階級の平均割合よりもSQが4%以上高い
後半追い上げ型①各階級の平均割合より後半2種目が1.5%以上高い
②各階級の平均割合よりもDLが3%以上高い
バランス型上記のどれにも属さない

これらの傾向を知っておくとパワーリフティングの試合観戦も少し楽しくなるかもしれません!BIG3を楽しみながら強くなっていきましょう!

読んでくれてありがとう!
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